訳文は、現代の噺家が落語の人情話を語っているような文体を選んだ。想定した語り手は、「少し頑固で頭が固く、しかし好奇心旺盛で情に厚いおじさん」である。
とあるように、読みやすさとともにリズム感も考慮してくれています。
連作短編集といっていいでしょう。色恋と性愛と義理人情の入り交じったエンタメ5編、「お夏清十郎」「八百屋お七」といった実際の事件を翻案したりして、まあなかなかの趣向でちっとも飽きませんでした。なるほど西鶴上手えなと思います。
古典から歌が引用されていたり、シャレを利かせていたり、具体的な事物が並べられていたりと、読み手を飽きさせない手練手管があちこちに込められていて、物書きとしての勉強にもなりますね。
人の身は限りあるものでございますが、恋は尽きぬものでございます。世のはかなさはおのが手で仕立てる棺桶のようなもの、世を渡るためと毎日錐や鋸でせわしなくトンカチやっておりますと、鉋屑(かんなくず)から立ちのぼる煙も命のようにはかなく感じられます今日この頃、「難波潟短き葦のふしの間も」と和歌に詠まれた大坂は天満の粗末な家に、樽職人の男が住んでいました。
天和二年の暦によりますと、正月一日の書き初めは万事よろしく、二日は新年初めて男女が枕を交わす「姫はじめ」によし、と書いてあります。姫はじめ、けっこうでございますな。せきれいが長い尾を振り立てて恋の手立てを教えたと伝わる神代(かみよ)の昔から、男と女の情事(いろごと)が止んだためしはございません。
なんて、ツラツラと引用してみました。
わたしが気に入ったのは、5話目「恋の山積る源五兵衛の物語」。歴としたBLなんですが、最後は女の手練手管にやられてしまうのです。あらすじを書いたのでは興ざめなので、ここは田中貴子の解説とともに楽しんでもらいたいと思います。まあ、面白いよ。
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