◎蟹の横這い(日記)

「原則と現実主義:カナダの進む道」

2026/01/22

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「原則と現実主義:カナダの進む道」

2026/01/22

急に忙しい日々に突入しています。土日にゆっくりと推敲していきたいところです。

今年(2026年)のダボス会議における、カーニー カナダ首相の演説が話題になっているということで、その全文を転載してみました。
カーニー首相の命式については後日ゆっくりと見てみます。


カナダのカーニー首相、ダボス会議演説が話題 全文を日本語と英語で:朝日新聞

ありがとう、ラリー。

カナダ、そして世界にとっての転換点にあたるこの場で、皆さんと共にいることは、私にとって喜びであり、同時に責務でもあります。
本日は、世界秩序の断絶、心地よい物語の終焉、そして大国間の地政学がもはやいかなる制約も受けないという、厳しい現実の始まりについてお話しします。
しかし同時に、特にカナダのようなミドルパワー諸国は決して無力ではない、ということも申し上げたい。人権の尊重、持続可能な開発、連帯、主権、国家の領土的一体性といった価値を体現する新たな秩序を築く力を、私たちは持っています。

弱き者の力は、まず誠実さから始まります。

私たちは日々、大国間競争の時代に生きていることを思い知らされています。ルールに基づく国際秩序が衰退しつつあること、強者はできることをし、弱者は耐えねばならないこと。


トゥキュディデスのこの警句は、避けられない現実として語られがちです。国際関係の自然な論理が再び前面に出てきたのだ、と。そしてこの論理を前に、多くの国は「波風を立てずにやり過ごす」方向へと傾きます。迎合し、摩擦を避け、従順さが安全を買うと期待するのです。

しかし、それは安全をもたらしません。

では、私たちにどのような選択肢があるのでしょうか。
1978年、チェコの反体制派ヴァーツラフ・ハヴェルは『力なき者たちの力』というエッセイを書きました。彼はこう問いかけます。共産主義体制はいかにして維持されてきたのか。

彼の答えは、八百屋の話から始まります。
毎朝、この店主は店先にこう書かれた看板を掲げます。「万国の労働者よ、団結せよ!」。彼自身はそれを信じていません。誰も信じていません。しかし、厄介事を避け、従順さを示し、周囲と折り合いをつけるために掲げるのです。そして、どの通りのどの店主も同じことをするからこそ、体制は存続します。

それは暴力だけによってではなく、人々が内心では虚偽だと知りながら儀礼に参加することで維持されるのです。

ハヴェルはこれを「嘘の中で生きること」と呼びました。体制の力は真実性にあるのではなく、皆がそれを真実であるかのように演じ続ける意志にあります。そしてその脆さも同じところにある。たった一人でも演じることをやめたとき――八百屋が看板を外したとき――幻想は崩れ始めるのです。

今こそ、企業も国家も、その看板を外すときです。

数十年にわたり、カナダのような国々は「ルールに基づく国際秩序」のもとで繁栄してきました。私たちはその制度に参加し、原則を称賛し、予測可能性の恩恵を受けました。その庇護のもとで、価値に基づく外交を追求することができました。
私たちは、この国際秩序の物語が部分的には虚構であることを知っていました。最強国は都合のよいときには例外を認められること、貿易ルールは非対称的に執行されること、国際法の厳格さは加害者や被害者の立場によって異なること。

それでもこの虚構は有用でした。とりわけ米国の覇権は、航行の自由、安定した金融システム、集団安全保障、紛争解決の枠組みといった公共財を提供してきました。
だから私たちは看板を掲げ、儀礼に参加し、言辞と現実の乖離を大きく指摘することを避けてきたのです。

しかし、この取引はもはや成り立ちません。

率直に言いましょう。
私たちは「移行期」ではなく、「断絶」のただ中にいます。

過去20年にわたる金融、保健、エネルギー、地政学の危機は、過度なグローバル統合がもたらすリスクを白日の下にさらしました。
近年では、大国が経済的統合そのものを武器として使い始めています。関税は圧力手段となり、金融インフラは威圧の道具となり、サプライチェーンは付け込まれる脆弱性となっています。

統合が相互利益ではなく、従属の源泉となるなら、「嘘の中で生きる」ことはできません。
ミドルパワーが頼ってきた多国間制度――WTO、国連、COPといった集団的問題解決の建築物――は著しく弱体化しています。

その結果、多くの国が同じ結論に達しています。エネルギー、食料、重要鉱物、金融、サプライチェーンにおいて、より大きな戦略的自律性を確保しなければならない、と。
この衝動は理解できます。自国で食料も燃料も確保できず、防衛もできない国には選択肢がほとんどありません。ルールが守ってくれないなら、自分で自分を守るしかないのです。

しかし、冷静に見なければなりません。要塞化した世界は、より貧しく、より脆弱で、より持続不可能なものになります。

さらにもう一つの真実があります。大国がルールや価値の「建前」さえ放棄し、力と利益の追求に専念するなら、取引主義から得られる利益は次第に再現困難になります。覇権国は永遠に関係を換金し続けることはできません。

同盟国は不確実性に備え、多角化を進め、保険をかけ、選択肢を増やします。これは主権の再構築です。かつてはルールに基づいていた主権が、今後は圧力に耐える能力に根差すようになります。

私は申し上げました。こうした古典的なリスク管理にはコストが伴います。しかし、戦略的自律性や主権のコストは共有することも可能です。強靱性への共同投資は、各国が個別に要塞を築くより安上がりです。共通基準は分断を減らし、相互補完は互いに利益をもたらします。

カナダのようなミドルパワーにとっての問題は、新たな現実に適応するか否かではありません。適応は不可避です。問題は、単に壁を高くすることで適応するのか、それともより野心的な道を選べるのか、です。

カナダは早い段階で警鐘を聞き、戦略姿勢を根本的に転換しました。
地理や同盟への所属が自動的に繁栄と安全をもたらす、という従来の心地よい前提がもはや成り立たないことを、カナダ国民は理解しています。
私たちの新たなアプローチは、アレクサンダー・ストゥブ氏の言う「価値に基づく現実主義」に立脚しています。言い換えれば、原則を守り、かつ現実的であることです。

主権と領土的一体性、国連憲章に合致する場合を除く武力行使の禁止、人権尊重といった基本的価値への原則的なコミットメント。

同時に、進展はしばしば漸進的であり、利害は分岐し、すべてのパートナーが価値を共有するわけではないという現実を認識する実利主義。私たちは世界をあるがままに直視し、望む世界を待つのではなく、現実の世界に主体的に関与します。

カナダは、関係の深さが価値観を反映するよう、各国との関係を調整しています。流動化する世界秩序とそのリスク、そして次に来るものの重要性を踏まえ、影響力を最大化するため、幅広い関与を優先しています。

私たちはもはや価値の強さだけに頼るのではなく、自らの強さの価値にも依拠しています。その強さを国内で築いています。

私の政権発足以降、所得、キャピタルゲイン、企業投資への減税を行い、州間貿易の連邦障壁をすべて撤廃しました。エネルギー、AI、重要鉱物、新たな貿易回廊などに、1兆ドル規模の投資を迅速に進めています。
2030年までに防衛支出を倍増させ、国内産業の育成につながる形で実施しています。
対外的にも急速に多角化を進めています。EUと包括的戦略パートナーシップに合意し、欧州の防衛調達枠組み「SAFE」にも参加しました。
過去6か月で、4大陸にまたがる12の貿易・安全保障協定を締結しました。
この数日間で、中国およびカタールとの新たな戦略的パートナーシップもまとめました。インド、ASEAN、タイ、フィリピン、メルコスールとの自由貿易協定も交渉中です。地球規模の課題解決のため、価値と利益に基づき、課題ごとに異なる連合を組む「柔軟に組み替え可能な協力枠組み」を追求しています。
ウクライナ問題では、「有志連合」の中核メンバーとして、人口比で最大級の防衛・安全保障支援を行っています。

北極の主権をめぐっては、グリーンランドとデンマークを断固として支持し、グリーンランドの将来を決定する固有の権利を全面的に支持します。NATO第5条へのコミットメントは揺るぎません。

NATO同盟国(北欧・バルト8か国を含む)と連携し、地平線越えレーダー、潜水艦、航空機、地上部隊への前例のない投資を通じて、同盟の北方・西方防衛を強化しています。カナダはグリーンランドをめぐる関税措置に強く反対し、北極の安全と繁栄という共通目標に向けた集中的協議を呼びかけています。

複数国間貿易では、TPPとEUを結ぶ架け橋を構築し、15億人規模の新たな貿易圏を生み出そうとしています。

重要鉱物では、G7を軸としたバイヤーズ・クラブを形成し、供給集中からの脱却を進めています。

AI分野では、覇権国家か巨大テック企業かの二者択一を迫られないよう、志を同じくする民主主義国と協力しています。

これは甘い多国間主義ではありません。弱体化した制度に依存するものでもありません。課題ごとに機能する連合を築き、共通基盤を十分に共有するパートナーと共に行動することです。場合によっては、それは世界の大多数の国々になるでしょう。

同時に、将来の課題や機会に活かせる、貿易、投資、文化にまたがる緻密なネットワークを構築しています。

ミドルパワーは連携しなければなりません。テーブルに着かなければ、メニューに載るからです。

大国は単独行動が可能です。市場規模、軍事力、交渉力があります。ミドルパワーにはそれがありません。覇権国と二国間でのみ交渉すれば、私たちは弱い立場から交渉し、提示された条件を受け入れ、最も迎合的であろうと競い合うことになります。

それは主権ではありません。従属を受け入れながら、主権を演じているにすぎません。

大国間競争の世界で、中間に位置する国々には選択があります。大国の歓心を買うために互いに競い合うのか、それとも結束して影響力ある第三の道を切り開くのか。

ハードパワーの台頭に目を奪われるあまり、正統性、信頼性、そしてルールの力が、私たちがそれを共に行使する意思を持つ限り、依然として強い力であり続けるという事実を見失ってはなりません。

ここで再び、ハヴェルに立ち返ります。

ミドルパワーにとって「真実に生きる」とはどういうことでしょうか。

現実を名指しすることです。「ルールに基づく国際秩序」が、いまだ機能しているかのように唱えるのをやめること。現状を正しく呼ぶこと。それは、大国間の競争が激化する時代であり、最も強大な勢力が経済統合を威圧の武器として自らの利益を追求する時代なのです。

一貫して行動することです。同盟国にも競争相手にも同じ基準を適用すること。一方からの経済的威圧を批判しながら、他方には沈黙するなら、私たちはまだ看板を掲げたままです。

信じると言っているものを実際に築くことです。旧秩序の復活を待つのではなく、言葉どおりに機能する制度や合意を創ること。

そして、他国による強制を可能にしているレバレッジを減らすことです。強い国内経済の構築は常に最優先事項であり、国際的多角化は単なる経済的な慎重策ではありません。それは、誠実な外交政策を支える実体的な基盤です。各国は報復に対する脆弱性を減らすことで、原則に基づいた立場をとる権利を獲得します。

カナダには、世界が求めるものがあります。私たちはエネルギー超大国であり、膨大な重要鉱物資源を持ち、世界で最も教育水準の高い国民を擁しています。年金基金は世界最大級かつ高度な投資家であり、資本、人材、そして決断力を持つ政府があります。

そして、多くの国が希求する価値があります。

多元的で機能する社会。騒々しいほどに活発で、多様で、そして自由な公共空間。カナダ国民は、持続可能性へのコミットメントを揺るぎなく保ち続けています。

不安定な世界において、長期的関係を重んじ、築く、安定した信頼できるパートナーです。

さらにカナダには、今何が起きているのかを理解し、それに応じて行動する決意があります。

この断絶は、単なる適応以上のものを要求しています。世界をあるがままに見る誠実さです。

私たちは看板を外します。

旧秩序は戻りません。嘆くべきではありません。ノスタルジアは戦略ではありません。

しかし、この断裂から、より良く、より強く、より公正なものを築くことはできます。

それこそが、要塞化した世界から最も大きな損失を被り、真の協力の世界から最も大きな利益を得る、ミドルパワーの使命です。

強者には強者の力があります。しかし、私たちにも力があります。見せかけをやめ、現実を名指しし、国内で力を蓄え、共に行動する力です。

それがカナダの道です。私たちはそれを公然と、自信をもって選びます。

そしてこの道は、共に歩む意思のあるすべての国に開かれています。

 

  • この記事を書いた人

Dexter Franciscocity

穗座来 萬大(ほざき かずひろ) / iPhoneカメラ愛好家。

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